1. 市場規模の現状と展望
世界市場の規模
2025年の世界の旅行予約市場は、目覚ましい成長を続けています。米国の旅行調査会社フォーカスライトの最新レポートによると、世界の総旅行予約額は以下のような推移を見せています。
年度 | 総旅行予約額 | 前年比成長率 | オンライン予約比率 |
---|---|---|---|
2024年 | 1兆6000億ドル | +7.5% | 62% |
2025年(予測) | 1兆7200億ドル | +7.5% | 64% |
2026年(予測) | 1兆8400億ドル | +7.0% | 65% |
2025年のオンライン旅行予約市場は7070億ドルに達し、その後も年平均成長率(CAGR)10.5%で成長を続け、2034年には1兆7370億ドルに達すると予測されています。
日本市場の動向
日本国内の旅行市場も、回復と成長の軌道に乗っています。JTBの最新調査によると、2025年の日本の旅行市場は以下のような規模になると推計されています。
国内総旅行消費額
14兆5,900億円
対前年比103.8%の成長
国内旅行者数
3億500万人
対前年比102.7%の増加
訪日外国人旅行者数
4,020万人
過去最高を更新見込み
2. 旅行予約業界の歴史と進化
伝統的旅行代理店の時代(〜1990年代)
かつては、街の旅行代理店が旅行計画と予約の主役でした。パンフレットを比較し、カウンターで相談しながら旅行を決めるのが一般的でした。旅行代理店は、航空券、ホテル、パッケージツアーの販売を通じて、消費者と旅行サービス提供者をつなぐ重要な役割を果たしていました。
GDS(Global Distribution System)の登場(1960年代〜)
1960年代に航空会社が開発したコンピュータ予約システム(CRS)が前身となり、航空券、ホテル、レンタカーの情報を一元管理するGDSが誕生しました。Amadeus、Sabre、Travelportなどの大手GDSプロバイダーが市場を牽引し、旅行代理店の予約業務が大幅に効率化されました。
オンライン旅行会社(OTA)の革命(1990年代後半〜)
1990年代後半からのインターネットの普及は、ExpediaやBooking.comといったOTAの台頭を促しました。消費者は自宅のPCから直接、価格比較や予約が可能になり、業界の価格透明性が一気に高まりました。これにより、伝統的な旅行代理店は大きな打撃を受け、役割の変革を迫られました。
メタサーチとモバイル化(2000年代〜)
2000年代に入ると、複数のOTAや航空会社のサイトを横断的に検索できるメタサーチエンジン(Skyscanner、Google Flightsなど)が登場しました。スマートフォンの普及は、いつでもどこでも予約ができる「モバイルファースト」の時代を到来させ、アプリ経由の予約が主流となりつつあります。
AI時代の到来(2020年代〜)
現在、AIとビッグデータの活用により、個人の嗜好や行動パターンに基づいたハイパーパーソナライゼーションが実現しています。チャットボットによる24時間対応、動的価格設定、予測分析など、AIは旅行予約体験を根本から変革しています。
3. 主要プレーヤーの分析
グローバル大手OTA
Booking Holdings
CEO: Glenn Fogel
傘下ブランド: Booking.com、Agoda、Kayak、Priceline、OpenTable
特徴: 世界最大のOTAグループ。Booking.comは220以上の国と地域で2,800万以上の宿泊施設を掲載。生成AIを活用した「AI Trip Planner」により、対話型の旅行計画サポートを強化している。
市場シェア: グローバルOTA市場の約40%
Expedia Group
CEO: Ariane Gorin
傘下ブランド: Expedia、Hotels.com、Vrbo、Orbitz、Travelocity
特徴: AIと機械学習への大規模な投資を通じて、パーソナライズされた旅行体験の提供を推進。特に長期滞在型の民泊プラットフォームVrboで差別化を図る。
市場シェア: グローバルOTA市場の約25%
日本の主要プレーヤー
JTB
代表取締役 社長執行役員: 山北 栄二郎
特徴: 日本最大の旅行会社。長年の実績と膨大な顧客データを基盤に、ソリューション事業やツーリズム事業を展開。国内の旅行動向に関する調査・分析は業界の重要な指標となっている。
2025年度売上目標: 1兆5,000億円
楽天トラベル
運営会社: 楽天グループ株式会社
特徴: 楽天エコシステムの一部として、楽天ポイントを活用した顧客囲い込み戦略で差別化。国内宿泊予約で高いシェアを持つ。
登録施設数: 国内外で約4万施設
じゃらん
運営会社: 株式会社リクルート
特徴: 若年層を中心に支持を集める国内OTA。豊富な口コミ情報と使いやすいインターフェースが特徴。リクルートポイントとの連携も強み。
月間利用者数: 約1,000万人
4. AI技術による業界変革
AIは旅行予約業界において、単なる業務効率化のツールを超えて、顧客体験を根本から変革する中核技術として位置づけられています。
AI活用の主要領域
AI技術導入マップ
パーソナライゼーション / チャットボット / 需要予測 / 価格最適化
AI活用の具体例
対話型AI旅行プランナー
Booking.comの「AI Trip Planner」のように、曖昧な要望から対話を通じてユーザーの真のニーズを理解し、最適な旅行プランを提案。
24時間AIコンシェルジュ
多言語対応のチャットボットが、予約から旅行中のトラブル対応まで、24時間365日サポート。
需要予測と在庫最適化
過去のデータ、季節性、イベント情報などを分析し、将来の需要を高精度で予測。オーバーブッキングリスクを最小化。
ダイナミックプライシング
リアルタイムで需給バランスを分析し、収益を最大化する価格設定を自動で行う。
旅行関連企業の半数以上がAIへの予算を増やす計画であり、顧客サービスの向上や業務効率化を目的としたAIツールの導入がさらに加速すると予測されます。旅行者の50%が、今後1年以内にレジャー旅行の計画に生成AIを利用すると予測されています。
5. 業界が直面する課題
急成長を続ける旅行予約業界ですが、同時に様々な課題も抱えています。
- オーバーブッキングやシステムエラーによるトラブルの増加
- 価格透明性の向上による利益率の低下
- サイバーセキュリティリスクの増大
- 持続可能な観光への対応圧力
- 新興プレーヤーとの競争激化
これらの課題に対し、業界各社はAI技術の活用、サービスの差別化、顧客体験の向上などを通じて対応を進めています。特に、トラブル発生時の迅速な対応体制の構築は、顧客満足度と企業の評判を左右する重要な要素となっています。